小鍛冶(こかじ)
能「小鍛冶」の後シテ“小狐丸”である。刀匠“三条小鍛冶宗近”が一条天皇の命により刀を打つ事になったが,めぼしい相槌をつとめる者が見当たらない。そこで京都伏見稲荷に祈願したところ現れた若者が小狐丸であり,この小狐丸の相槌で刀を無事うち上げ天皇に献上できたという故事による。小狐丸は伏見稲荷の化身とされ稲荷大神の威光をあらわした能といわれている。
名工・名人はとかく伝説がついてまわる。伝説があるから名人なのか、それともとても常人のおよばぬ名人の、優れた技能が伝説を生むのであろうか。室町期の 『尺素従来』 のなかで 「一代聞達者」とうたわれた刀工、三条小鍛冶宗近にも伝説が多い。能 「小鍛冶」 はこの、名工が伏見・稲荷の明神の加護で一条から頼まれた剣を無事に打ち上げる霊験譚だ。ワキとして登場の小鍛冶宗近は実在の刀工であろう。「小鍛冶宗近は一条院の御字の人なり、一条院御字四剣に入り……天慶元年生まれ、長和三年死す、七十七歳」一説に、橘平太仲宗といい、藤原兼家に仕えた。ふとした事件から薩摩に流され、刀工正国の弟子になり、永祚元年(九八九)に帰洛して三条に住んだ。
 不明なところは多いが、宗近の名を高からしめているのは、能であり、祇園祭の山矛巡行の先頭をきる長刀鉾の長刀を打ったという伝説に負うところが大きい。
 橘道成は一条天皇の勅諚(ちょくじょう)で、三条粟田口の小鍛冶宗近のもとに急いだ。宗近に剣を打たせよ、との天皇の夢に不思議なお告げがあったせいである。
 橋懸から幕に向かって伝える道成の宣旨(せんじ)を三の松に平伏して受けた宗近は、しかし尻込みする。「畏まって承りましたが、そのような剣を打ちますには、私に劣らない合槌がいなければなりませぬ。宣旨、即答はしかねます」とはいえ道成の重ねての頼みに、進退極まり「氏神の稲荷の明神におすがりして」と引き受け、宗近が脇座に引きかかると、どこからか宗近の名を呼ぶものがある。声の主は、童子であった。不思議にも童子は、ついいましがた受けた宣旨を早くもしっているのであった。
童子は、鐘馗(しょうぎ)の持つ剣の威徳などの中国の故事、日本武尊の草薙(くさなぎ)の剣の故事を語り、こんど打つ剣も、この草薙の剣に勝るとも劣らなければないと、宗近を励まし、夕雲の稲荷山をさして姿を消す。力を得た宗近は、七重の注連縄(しめなわ)を掛け、四方に神影を祀った鍛冶壇の上にあがって、「さあらば十方恒沙(こうしゃ)の諸神、只今、宗近に力を合わせて賜びたまえ」と、天を仰いで祈った。
 そのとき、早苗の囃子とともに走り現れたのは、槌を手にした稲荷の明神。銀冠を白頭に戴き、小飛出の面をつけた異形である。やにわに、壇上にあがって宗近の打つ槌に、ちょうちょうと合槌を重ね、みるみる剣を打ち上げたのであった。稲荷の明神は剣を 「小狐丸」 と命名、表に小鍛冶宗近、裏に小狐と銘を入れ、勅使に捧げると、叢雲に乗って稲荷に帰っていくのだった。
 稲荷明神は狐の化身ですから、頭には狐の飾り物をつけ、白頭なので狐足という運びはすり足ではなく、踵をできるだけ床につけず、腰を一定の位置に決め爪先だけでピョンピョンと跳ぶような動きをします。まさに狐の動きを模したもので、非常に脚力が要求されます。後シテ・稲荷明神は普通は赤頭をつけ黄金色の狐を頂きますが、白頭は白い頭(かしら)に白い狐を頂きます。『小鍛治』の場合の白頭は狐の系統で狐足となり、重厚さというよりは狐のような俊敏な動きがテーマになります。伝書を見ますと「白頭の時、面は野干又は泥小飛出」とあります。一度「野干(やかん)」をつけてと思うのですが、やはり狐足の動きと合わないように思えてなかなかその気になれません。
ここで小鍛冶の面について稲荷明神という神格化したものを表現するという意味では、面は金泥小飛出がふさわしく、装束は清楚、純粋、高位を表す白装束、そして白頭というのが似つかわしい、この演出はまちがいないところです。
泥眼(でいがん)
能「海士」や「当麻」のように女人が成仏して菩薩となったさいの、相貌を表した面。名称の由来は、金泥を施した目をもっている女面であるということからきている。この工作は、超人間的存在としての表現。女面とはいえ、口は両端を後方に引き、全体がまゆ型ににており、金泥を施した歯も上下ともあり、さらに毛描も適当に乱れ、妖気のただよった霊的にかなりきびしい相貌をしている。

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沼田祇園囃子保存会祭吉連 HP事務局 担当 春吉

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